農家の建築
=プライマリーストラクチャー
あんこやぺのある美作市大原宿の土佐邸
の裏庭に新設した植栽を楽しめるベンチ
の製作である。移住してからというもの
、目に映るかっこいいと思うアーキテク
チャ―は第一次産業のための工作物(プ
ライマリーストラクチャー)が多いなと
あるときから思うようになった。もしか
したら、ずっとそうかもしれないけど。
その中でも岡山県という土地柄もあって
ボールト型のぶどう棚が一番のお気に入
りである。プライマリーストラクチャー
という言葉は、『食と建築土木』という
本の中で建築家の松野勉さんが紹介して
いた言葉だ。さらに、本の中では、プラ
イマリーストラクチャーが作られるプロ
セスに関しても記述があり、このように
書かれている。
プライマリーストラクチャ―が作られる
過程では、おそらく、全体設計図は描か
れていない。小さな構築物を試しに作っ
てみて、うまくいくようであれば、その
次にもう少し数を増やしてみて、不具合
があれば微修正し、その上でさらにうま
くいくようであれば、隣の農家に教えて
あげて、似たような(でも微妙にディテ
ールは異なるかもしれない)構築物が作
られる。
参照
食と建築土木 後藤治 二村悟
同じ美作市、右手集落で取組んでいるみ
つまたの事業承継『THINK ABOUT 3』の
話になるが、みつまたを蒸す釜もこのこ
とと共通する部分が多い。中右手集落は
袴が仙を中心に点在する谷地の集落群の
うちの一つ。ここら一体は梶並地区と呼
ばれどの集落も冬の換金作物として、み
つまたを栽培、出荷をしていた。中右手
集落の釜と宮の上集落でみつけたみつま
た釜は共通するところも多く、使い手や
地形によって絶妙にディテールも違う。
まさに、プライマリーストラクチャーで
ある。
話を戻すと、ぶどう棚は張力構造で作ら
れ、斜めに打ち込んだコンクリート柱を
支点にテンションをかけ、ピンと張った
メッシュ面を作っている。その面を棚と
呼んでいる。このグリッド状の棚にぶど
うのツタを這わせ、収穫しやすいように
仕立てていく。ぶどうの成長や経年劣化
により、メッシュ面はたわみ、ひずんで
しまうが、その度テンションをかけ直し
てたわみを調整していく。最初のモデル
はタイドアーチ橋のように板材の端部に
紐を引っ掛けて引っ張ることにより、板
材を無理やりたわませるというもの。ぶ
どう棚の様な規則的な配置に並んだロー
プであるが、引っ張り方によって、捻じ
れた面白い曲面が構成できそうだ。
STUDY 01
ぶどう棚からタイドアーチ橋
なるほど。身近にみる架構物にもそれが
成り立つ構造メカニズムがあり、掘り下
げていくと面白いことができるかもしれ
ない。近々、子供達と身近にある構造体
のメカニズムをひも解くWSなどをやって
みたいと思っている。やるやる詐欺にな
らないようにしないとな笑
構造の美しさ以外にもプライマリースト
ラクチャ―には大事な要素があると思っ
ていて、それはありあわせのモノで、設
計図を引かずに即物的に作っていくとい
う手法のこと。スタディ2では、ぶどう
棚のボールト屋根というモチーフだけを
抽出して、ホームセンターで調達できる
材料のみで製作してみた。スタディ1と
は違い、いきなり実寸で。材料には農業
資材のアーチトンネルに2.7mmのべ
二ヤをインシュロックで取付。おっいい
感じ。いつも見慣れているビニールのボ
ールト屋根より存在感はある。
STUDY 02
ベニヤのボールト屋根
結局、工期的なことと予算の関係でスタ
ディモデル2をベースにベンチを制作す
ることになった。最後は、スギーモさん
の植栽とスタジオモメンが選んでくれた
播州織の布で製作した仕切材のおかげで
、土佐邸の裏庭にコミュニケーションを
誘発するような、良いベンチが出来上が
った。素人施工の小さな構築物の実験は
雪の重さにも耐えてなお、立ち続けてい
る。
用途:ベンチ
場所:岡山県美作市古町
構造:木造
施工:アトリエナカウテ
テキスタイル:村田裕樹 / 小野圭耶
植栽:スギーモ園藝事務所
写真:アトリエナカウテ