UYMS

UYMS/2021~2022


美作市南部上山地区空集落に計画したサ
ウナ。上山地区では穏やかな山の斜面の
高低差を利用した棚田が広がり、かつて
は8300枚の棚田群があったとされて
いる。しかし、近年では過疎・高齢化に
より田畑の荒廃は進み、棚田が果たして
いた大雨時の保水の役目、棚田を中心と
したコミュニティが失われつつある。そ
んな中、2007年から移住者を中心に
棚田の再生を志す者が現れ、精力的な開
墾作業、ユニークなPR方法により、一人
また一人と仲間が集まり現在では160
人いる上山地区の住民のうち40人が移
住者である。

1/4が移住者の村、上山集落

上山地区空集落の棚田再生の中心にいる
蟻正さん。名は体を表すというが、空集
楽は上山地区で標高が高く見晴らしがい
いことから名付けられた集落名。蟻正さ
んはこの場所で山羊を数頭、羊が2頭、
縄文柴犬と共に暮らしている。まだまだ
動物は増える予定もあるようで、工事中
に生き物が増えていく様を遠目に眺めて
いた。理由は分からずとも、名に生き物
がついてるしな。多分そういうことなん
だろうと思っていた。

空・蟻・山羊・羊・縄文柴犬

空集落は貸農園付別荘地、クラインガル
テンの跡地であり、ここもまた耕作放棄
地が広がるエリア。空集落では上山地区
内の集落の中では独特なルールの元、建
物が配置されている。クラインガルテン
を設置した際の取り決めで土地の持ち主
が地目に関係なく田畑に簡単な小屋を建
てても良いと取り決めたのだ。そのため
、集落景観でよくみられる田畑と建物が
はっきりと住み分けられていなく、畑の
中に小さな小屋が点在している。小屋も
また、棚田景観の一部となっている。

小屋もまた、棚田景観の一部


計画場所はかつてはそこに作物を植えて
いたであろう棚田で石がゴロゴロと転が
り法面が崩壊した斜面地。

「ここにサウナを作りたいと。」(蟻正)

今まで関わった建築と違って、敷地境界
線も基準となる座標もなく、ある意味、
最も自由な設計条件。サウナ小屋は、田
畑に建築することや、建築する事により
石段の補修を兼ねたいという目的から、
基礎を打たない掘っ建て小屋とし、建築
の構造体は土木技術である山留構法を採
用している。大地に大きな丸太を差し込
み石棚の崩壊を防ぐとともに、土地と建
物が一体になった土着的な小屋を作るこ
とを目指した。そして、建築にはオーナ
ーの蟻正さんと一緒に、一年かけて作り
ながら、考えることを実践した。

作りながら、考える建築

花崗岩地帯であるこの一帯は、地元の土
建業の人に言わせれば、機械で掘れば大
きな花崗岩がゴロゴロと出てきて、その
度に工事がストップしてしまうのでこの
エリアの入札工事に手を上げることに躊
躇してしまうらしい。

花崗岩は深成岩の一種でいわゆる溶岩。

上山集落にあるサウナのサウナストーン
は花崗岩。サウナの本場、フィンランド
人からすれば、花崗岩を使うなんてナン
センス!花崗岩に含まれた石英が熱で割
れちゃうだろ。という声が聞こえてきそ
うだがそんなのお構いなし。身近にある
。何か壊れたとしても近くから採取でき
ることが重要で、この地はサウナストー
ンがゴロゴロとしている。床は花崗岩が
粉砕してできた真砂土に消石灰と塩化マ
グネシウムを締め固めてできた三和土土
間。もう、叩きたくないと思うほどとに
かく叩いた。外壁は別の古民家改修で余
った土壁に整地した際に掘り返した土を
混ぜこんだ壁。とにかく手間と時間がか
かる。蟻正さんは内心ほんとにできるの
かなと思ったに違いない。ランドスケー
プは山羊と羊と人の足跡を頼りに、道が
見えてきたら、近くに転がっている石を
運んで、即物的に作っていく。蟻正さん
は腰を負傷させながらも重い石を運んで
、いい感じの階段と道を作ってくれた。
いつも生き物と一諸にこの場所を歩いて
いるからなのか空間がよく見えている。
ゴロゴロと散らばった花崗岩がサウナ小
屋ができることにより秩序だって整理さ
れて場所が作られている様はとても気持
ち良くなる変化であった。

こうして、一年かけて蟻正さんと作ったサ
ウナ小屋は一区切りしたのだが、今でも中
右手の蔵サウナと同様に火焚きおじさんと
して、サウナの火を炊いたり、補修作業に
いったりと定期的にメンテナンスにいって
いる。使いながら作る建築は継続中だ。つ
つい先日、換気口付近にサウナ小屋の土壁
を材料に泥バチが巣作りを開始していた。
この光景を見るなり、おっ。なるほど。人
が作り上げたマテリアルを活用した蟻さん
と生き物たちの建築がついに動き出したん
だなーと。そう思ったのでした。

名は体を表す。。。ですね。

蟻さんと生き物たちの建築
使いながら作る建築

用途:サウナ小屋
場所:岡山県美作市上山
構造:木造

設計:アトリエナカウテ
施工:永井建設/アトリエナカウテ/蟻正敏雅

写真:アトリエナカウテ