「森の展示室UTE」が終了し、一週間が経とうとしています。今日は台風の接近によって大雨だった初日の天気とはうってかわって、雲ひとつない気持ちの良い秋晴れとなりました。会期が一週間ずれていれば良かったのに。そんな声も上がってきそうですが、天候やその日の森のコンディションによって違った楽しみ方ができるのは森の展示室ならではの良さ。そんな風に前向きに捉えています。中右手集落では日々の生活が再開しています。受付会場となった久米屋は、「パブリックハウス&サウナ久米屋」として、いつもの様にサウナに訪れるお客さんのために、朝からおもてなしの準備を行っています。今日はサウナの火焚き当番、火焚きおじさんの日。火焚き合間に気になって、展示会場となったみつまたの森に入ってみました。村のサウナはみつまたの森、入口付近に位置しています。サウナを越えて、小川に並走する轍が残る範囲が今回の展示範囲。一本の道で繋がっているため、普段は迷うこともありません。森の展示室が始まるまでは村の人が道沿いに仕込んだキノコの収穫やミツマタを運ぶための、つまらない道だ。そう思っていました。
この日は、作品のあった場所に立ち寄りながら、時折足を止め、ゆっくりと森の中を散歩しました。作品のあった場所へ向かうまでの道中には、作品が置かれたぬかるみに残った足跡、多くの人に踏まれて地面にへばりついたシダ植物が作り出した道のような線、作品の参照となった落葉して土に還りそうな杉やヒノキの葉、展示する過程でつけられた杉の木の傷跡など、人の形跡が森のいたるところに残っていました。シカやイノシシなどの足跡だけではありません。つまらなさは消え、歩いていて心地よく感じる森でした。
荒れた森が綺麗に整備されたわけではありません。ましてやシカやイノシシは減っていません。しかし、会の前後で起きたこの認知の変化は何なのでしょうか?
ひとつは、今回参加いただいた14人の作家の方々が、この森のこと、そこにある素材や背景をくみ取って製作してくれたこと。このことがとても大きかったと思います。住民にとって普段の生活では認識できない森の新たな一面を作品や行為を通じて映し出してくれました。つぎに、会に参加した人が皆、これらのメディアを受け取るため、森の中を探し、彷徨ったこと。この2つの事がうまく重なって、つまらない一本の道から、ぬかるんだ道、はずれ道、道は見えず作品までたどりつけない場所、傾斜に沿ってできたくねくねとした道など森と呼応する形で森全体のいたるところで様々な道が作られました。つまり、作品と受け手のノンバーバル・コミュニケーションの末に生み出された場所が、楽し気な・活き活きとした姿で残っていたのです。これが認知の変化(=物の捉え方の変化)が起きた要因です。
実は、森の展示室が始まる前、こんなことがありました。
みつまたの森は、住民からは「奥の谷」と呼ばれいてる場所です。奥の谷は棚田の形跡も残り、斜面にはチャノキやクロモジなど人の生活と親しい植物たちが自生するなどかつての生活領域だったところです。しかし、ほとんどの人がこの場所には入りません。唯一、道づくりという名の草刈り作業のため、この場所に入る程度。今年の道づくりは、長年村で生活している信幸さんと私がこの奥の谷の当番。途中まで、轍を頼りに上っていき、30分程刈り続けたところで、トラックが転回できるほどの平らな場所に到着しました。その先には道はない。そう思っていました。しかし、信幸さんはしばらく休憩した後に、倒木をかき分けながら奥へ奥へと進んでいきました。私がその先は何もないと認識していた場所が信幸さんにとっては管理すべき道だったのです。先の話と同様に会話や草刈り作業(そんなこと言うと草刈り作業もアート活動の一種なのかと思うほど)を通じて信幸さんが知っている森のイメージを受け取ったのです。このことで狭かった森の輪郭も大きく広がりました。今のところは、その範囲が実際はどこまで?といったことをお互いに照らし合わせる必要はなく、大事なことはひとつの現象に対して得られる様々なイメージを知ることだと思っています。
何ぞ、森に参ろうか(=私たちはこの先、何のために森に入るのだろうか?)
この言葉は森の展示室UTEを開催するにあたって、遠く離れてしまった人と森との関係を「森に入る(=参る)」という行為から改めて考えましょう!そんな思いが込められたキャッチコピーです。初めて開催された今回は3日間で250名の方に来ていただきました。どれだけの人が会の前後で森に対するイメージが変わったのでしょうか?ひとりひとりに聞いてみたい気持ちです。もし、私のように良いイメージに好転したのであれば、それは作家の方々、参加いただいた方々がみつまたの森に入って(=参って)、作る。演じる。交わる。集まる。探す。迷う。立ち止まる。調べる。聞き入る。感じることで得られた喜ばしい結果です。
さて、会の余韻も冷めやまぬまま、もう間もなく中右手集落には寒い冬がやってきます。この冬は皆さんより先にみつまたの事業承継という形で森に入る(=参る)目的を見つけた協力隊の鶴ちゃんを中心にみつまたの収穫作業が始まります。どのように森の姿がかわっていくのか楽しみなところです。もちろん、応援や一緒に作業してくれる方いつでも大歓迎です。これに続けとばかりに、みつまたの森や中右手集落との関係を築きたいという人がひとりでも多く現れることを期待して、記念すべき第1回目の森の展示室UTEを閉幕したいと思います。
作家の皆様、お越しいただいた方々、地域住民の皆様、展示室の運営に関わってくれたすべての方々、本当にありがとうございました。(この投稿では触れられなかった体験WSの様子は別の機会に詳しく上げられればと思っております。)素敵な写真をたくさん撮っていただいた岡野さんには感謝です!!
それでは、また次回、お会いできる日を楽しみにしています!!
森の展示室UTE実行委員会
多田衣里・丸山耕佑・鶴谷晃徳